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大阪地方裁判所 昭和53年(レ)86号 判決

以下は、判例タイムズに掲載された記事をそのまま収録しています。オリジナルの判決文ではありません。

【説明】

Xは居住家屋の一部を店舗としてYに転貸していたが、老令かつ孤独で将来格別の収入も見込まれないので、次男に右店舗で商売をさせて生計を維持するとともに、次男夫婦と同居し老後の面倒をみてもらう必要があるとして、期間満了による更新拒絶及び予備的に賃貸借の解約を申入れていたのに対し、Yは右店舗で長年商売を営み生計の基盤として同店舗を必要としている旨主張し、正当事由がないと争つていた。

原審は、Xの更新拒絶による明渡請求は理由がないとして棄却し、且つ無条件解約申入には正当事由がないとしてXの明渡請求を棄却したが、Xは、控訴審で立退料として三〇〇万円を提供する旨申出、その趣旨に則り訴を交換的給付請求に減縮した。

この判決は、X、Y双方が右店舗を必要とする事情や明渡交渉の経過などを斟酌したうえで、更新拒絶については原審の判断を維持し、解約につき、右立退料提供の申出により解約申入の正当事由が具備されたものと認め、右申出のあつた日から起算して六か月を経過する将来において、右立退料の提供と引換えにYに対し右店舗の明渡を命じた。

【判旨】

2 そこで、解約申入の正当事由が存するか否かについて検討する。

(一) <証拠>を総合すると、次の事実を認めることができ<る。>

(1) 控訴人は、昭和二二年ころ本件建物の所有者である訴外余島市太郎の先代訴外亡余島彦太郎から本件建物を賃借し、昭和二六年ころ本件店舗を訴外名倉常太郎に転貸する一方、自らは本件建物のうち本件店舗を除いた部分に居住しながら大阪市弁天町で鉄工業を営んでいたところ、工場敷地が大阪市により収用されたため、昭和四四年ころからは大阪市港区南市岡一丁目一番一八号国鉄環状線高架下で工場を賃借し引続いて鉄工場を営んでいた。ところが、工場敷地の大部分が国鉄の土地を不法占拠していたため、昭和五〇年ころ以降国鉄から立退要求を受けており、不法占拠部分を明渡すと工場経営は成り立たない。

(2) 控訴人は、日本語の読み書きが困難で、七二歳という高令に達しかつ神経痛に悩まされ充分な活動ができないうえ、妻も長期入院の末昭和五四年一〇月二〇日死亡し、頼るべき長男は行方不明で、二男富一も結婚をしたが鉄工業経営に必要な技能を有しないのでこれ以上鉄工業を継続していくことは困難な状況にある。

(3) しかも、控訴人経営の鉄工業は、控訴人と富一の他には高令の従業員が一名だけの小規模で資金も乏しく近代的設備も備えていないうえ、不況の影響もあつて昭和四五年ころから経営が悪化し、鉄工業の収入だけでは生活を維持できない状態である。そして控訴人も富一も日本国籍を有しないため、日本企業などに就職して給料生活を営むという機会を得ることは仲々困難で、その見込もない。

(4) 控訴人は妻に先だたれ、高令かつ病弱であり、今後は富一夫婦に同居してもらつて老後の世話をしてもらわなければならないが、格別資産もないので被控訴人に本件店舗を明渡してもらい、現在近くに間借り住いをしている富一夫婦に引越して来てもらう以外にさし当つて措るべき方法はない。

(5) 以上のような事情から、控訴人は、本件店舗の明渡を得て、富一に陶器類の小売店を開業させ、富一夫婦を本件建物に同居させその世話を受ける計画であり、富一夫婦も同様の予定でいる。

(6) 一方被控訴人は、昭和二六年ころ名倉が控訴人から本件店舗を賃借し雑穀乾物商を始めて以来、同人から経営一切を任されて本件店舗に居住し、昭和三五年に結婚した後も妻や子供(昭和三七年長男出生、昭和三九年長女出生)とともに本件店舗に居住していたが、昭和四六年四月初め頃、控訴人の要求により本件店舗を営業専門とし現在も本件店舗で専ら右営業を続けており、被控訴人にとつて本件店舗は生計上の基盤をなしている。

(7) 控訴人は、昭和四六年一月ころから鉄工業の行末を見越しそれまで本件店舗の賃借名義人であつた名倉や同店舗に居住し雑穀乾物商を営んでいた被控訴人に対し、本件店舗の明渡を求め交渉した結果、被控訴人において基本的にこれを受け入れたが、移転先の空店舗がなかつたのでそれが見つかるまでの期間明渡を猶予することにし、同年三月三〇日新たに被控訴人との間で期間を二年間として本件店舗につき賃貸借契約を締結した。また、その際控訴人が右のように明渡を猶予する一方で、被控訴人は、控訴人の要求に応じて、将来の明渡に備え取り敢えず本件店舗での居住をやめ、営業専用に使用することにするとともに、保証金二〇万円を新たに差入れ、また、それまで月額一万二、〇〇〇円であつた賃料を月額二万円に増額することを承諾した。

(8) その後、被控訴人は、右期間満了後も本件建物の使用を継続していたため、控訴人や富一らが交渉した結果、先と同様に被控訴人は控訴人に対して、空店舗が見つかり次第本件店舗を明渡す旨約し、控訴人もこれを了承して、空店舗が見つかるまでの期間を考慮して、さらに二年間期間を更新することとし、昭和四九年六月三〇日本件賃貸借が更新された。

(9) その後、控訴人は、度々本件店舗の明渡を求めたが一方被控訴人は、昭和五〇年六月ころ本件店舗の近くで空店舗が出た際家主に賃借を申込みに行つたものの、事情により断られたことがあつた他には、特に移転先の空店舗を探す努力をした形跡はない。

(二) 控訴人は、昭和五五年四月一四日の当審第八回口頭弁論期日において被控訴人に対し、解約申入れの正当事由を補完するため立退料として金三〇〇万円を支払う用意のある旨意思表示をしたことは当事者間に争いがない。

(三)  以上、控訴人は現在老令で妻に先立たれて孤独で、格別の収入も見込まれず、今後は被控訴人に本件店舗を明渡してもらい、同所で富一に陶器類の小売店を開業させるなどして生計を維持し、同人夫婦と同居し老後の面倒をみてもらうさし迫つた必要があり、また被控訴人は、控訴人の昭和四六年以来の明渡要求に対し空店舗が見つかり次第本件店舗を明渡す旨約しており、且つ控訴人は被控訴人に対し立退料として金三〇〇万円を提供するというのだから、被控訴人が長年にわたり本件店舗で営業を続け同店舗を生計上の基盤としており、且つ移転先の空店舗を探すといつても必ずしも容易ではなく、資金も必要であろうけれども、なお控訴人には本件店舗の賃貸借の解約の申入をするにつき正当事由があると認めるのが相当である。

(四)  したがつて、控訴人は、被控訴人に対し立退料金三〇〇万円を提供する旨意思表示をした昭和五五年四月一四日の口頭弁論期日において始めて正当事由を具備した解約申入をしたものと認めるのが相当である。そうして、借家法所定の六か月の解約申入期間は正当事由の具備したときを基準として算定すべきものと解せられるから本件の場合期日から起算して六か月を経た昭和五五年一〇月一四日の終了により解約の効果を生じ、本件法定更新にかかる賃貸借は終了すると認めることができる。

四ところで、控訴人の本件予備的請求は口頭弁論終了後に解約期間が満了する場合にも被控訴人に対し本件店舗の明渡を求める、いわゆる将来の給付の訴の趣旨をも含んでいるものと解されるところ、被控訴人は現に解約の申入による効力を争つているのだから、控訴人において予め右請求をなす利益があると解せられる。

(三井喜彦 古川博 平井慶一)

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